2007年09月12日

米国の責任でイラク人が100万人死んだのか?

米軍の侵略と占領の結果イラクで殺され、命を落とした人々の数について。
米国の責任でイラク人が100万人死んだのか?
パトリック・マケルウィー&ロバート・ネイマン
2007年9月11日
Just Foreign Policy
Znet 原文

2006年10月、ジョンズホプキンス大学の研究者たちが、欧州で最も重要で評価の高い医学論文誌『ランセット』誌に査読論文を発表した。その論文は、米軍主導のイラク侵略により、65万人のイラク人が殺され、そのうち60万1000人は暴力的に殺されたと推定している [1]。アメリカ合州国では、この報告はすぐさま脇へ押しやられ、大きな議論とはならなかった。

研究方法に問題はない。彼らが用いた方法は、天災や人災ののちに出生率や死亡率がどうなっているかなど、人口統計学的な測定を行うために世界中で広く受け容れられているクラスター調査という方法を用いている。彼らの調査に重大な欠陥があることを見つけ出した人も一人としていない。この調査結果が取り上げられなかったのは、どれだけたくさんのイラク人が死んだのかという、政治的な論争を引き起こす疑問を提起し、政治的に受け容れがたいほど多くの人が死亡したという答えを出したためであった。

『ランセット』誌の推定は、2006年7月に完了した調査に基づいており、それ以来、人口統計学的調査は行われていないため、Just Foreign Policyは、その調査以後に暴力的な死を遂げた人の数を考慮するために『ランセット』調査をアップデートし、死者の規模を改めて米国における議論の対象にしようとした。私たちは、『ランセット』の推定をもとに、イラク・ボディ・カウント [2] が維持する西側メディアが報じた死者数のデータベースにもとづく趨勢線を用いて外挿した。継続的にアップデートを続けているこのデータにもとづく最も可能性の高い推定によると、米軍のイラク侵略と占領の結果、暴力により殺されたイラク人は100万人を超えるという結論になる [3]。

『ランセット』誌に発表された研究とその知見は例外的な扱いを受けた。イラク以外の戦争地域では、クラスター調査の結果は死者数の推定として標準的に受け容れられる。たとえば、米国のメディアもブッシュ政権も、ダルフールで20万人が死んだという、クラスター調査にもとづく推定を、確実な事実として一貫して引用している。

侵略後にどれだけの人がイラクで死亡したかについて、『ランセット』研究と競合するような科学的調査はなされていない。アメリカ合州国が戦争を始める決定をしたことについて評価するために最も重要であるにもかかわらず----あるいはまさにそうであるがゆえに----占領軍もイラク政府もイラク人死者について公式の科学的な調査を行っていない。ブッシュ大統領がときおり無根拠に断言する以外、米国政府はイラク人死者の推測さえ行っていない。メディアや主要な政策立案関係者が好んで引用するイラク人死者数の推定は、メディアの報道とイラク政府による政治的な発表という、明らかに不十分な二つの情報源に基づいている。

どの国のものであれ、メディアは暴力で殺された人々のうちごく一部についてしか報じていない。パトリック・ボールが示したように、このことはとりわけ暴力が激しいときにますます強くあてはまる [4]。イラクでは、メディアの活動は安全に行ける場所に限られており、そうした場所はますます少なくなっている。イラクにおける暴力をメディアが報じることは重要で、しばしばそうした情報は果敢な努力により手に入れられたものであるが、それらをもって、死んだ人たちの数全体についての実情であると考えることはできない。

イラク政府はイラクにおける死者数の推定を定期的に発表していたが、それらは政治的な偏向を受け、信頼できないものであった。2006年前半、イラク保健省の公式推定では、侵略以来、イラク人民間人の暴力による死者数は4万人から5万人となっていた。2006年10月、『ランセット』に死者は65万人にのぼるという推定が発表されたのと同じ週に、イラク保健省は推定を3倍に増やし、死者数は15万人であると発表した。イラクで暴力により死亡した人を一人一人数える包括的な仕組みは存在しない。

本記事を書いている現在、イラク・ボディ・カウントは、6万9000人から7万6000人のイラク人民間人が殺されたと報告している。けれども、『ランセット』研究の共著者であるレス・ロバーツが指摘するように、「イラクの人口規模の国では、年間に少なくとも12万人、おそらくは14万人の人々が自然的原因により死亡する」。仮にイラク・ボディ・カウントがすべての死を考慮しているとすると(そのようには主張していないが)、この4年間の年間死亡率の上昇は15%以下である。ロバーツは、「死亡率の上昇がこのくらいならば、死体安置所が一杯で死者を収容できないとか、新たな墓地を作らなくてはならないとか、遺体収集作業団を新たに設置しなくてはならないといった、私たちが耳にする数多くのニュースはおかしいことになる」と語る [5]。イラク・ボディ・カウントが提示している死者数の規模はまた、400万人のイラク人が自宅を離れたという推定とも整合しない。というのも、難民に対して行われたインタビューは、こうした人々が自宅を離れた理由は、しばしば、家族の一員が殺されたことにあることを示しているからである。

米国の「イラク研究グループ」も、「イラクで起きている暴力についての報道はまったく不足している」と述べている。同グループは、2006年7月、米国諜報が93の攻撃があったと報じているある一日について言及している。「けれども、注意深く情報を検討した結果、その同じ日に1100の暴力行為があったことがわかった」[6]。英国の日刊紙『インディペンデント』は、イラク政府は爆発現場に記者が入ることを禁じており、また、病院が犠牲者の数を提供することも禁じていると報じている [7]。

2007年1月9日、フォックス・ニュースの記者が米国空軍に軍属して活動していた。彼の報道によると、彼のいた基地から出撃した複数の空軍機は「数千ポンドの爆弾を投下した。イラク内陸深くの標的25カ所を爆撃した」という。けれども、これらの爆撃による死者は英語圏のメディアには一つも記事となって報じられていない [8]。

ブルッキングス研究所によると、米軍は、毎週、数万回のパトロールを行っており、それには敵対的な地域へのパトロールも含まれる [9]。これらのパトロールの際に、とりわけ兵士たちが至近距離で誰が脅威で誰が脅威でないかわからないような状況で、致死的な武力がどれだけ頻繁に使われるかは、報じられていないために不明である。

さらに、市街戦のストレスから、米軍の中には、イラク人全員を敵と見なすようになる兵士も出ることが示唆されている。米軍メンタルヘルス相談チームが最近行なった調査によると、「非戦闘員は誰であれ威厳と敬意をもって扱わなくてはならない」と考えているのは兵士の47%に過ぎず、海兵隊ではわずか38%であった。「罪のない非戦闘員に怪我をさせたり殺した」ときに、部隊にそれを報告すると答えたのは、海兵隊の40%、兵士の55%に過ぎなかった [10]。『ネーション』誌は、最近、イラクで従軍した元兵士たち50人にインタビューを行ったが、そのなかで「米軍の兵器により子どもも含めイラク人民間人が殺されたのを目撃した者は数十人にのぼる」。元兵士たちは、こうした殺人は通常報告もされないし処罰もされないと述べる。そのうち一人は、イラク人民間人が殺されることはあまりによくあるので、そうした事件をすべて調査するのは不可能だろうと述べた [11]。

私たちはまた、ラテンアメリカでの経験から、非常に多くの遺体が「消える」可能性があることを知っている。報道によると、イラクで起きているセクト的殺害の多くは、イラク治安部隊や民兵によるものであり、そうした勢力は殺害を隠蔽することができる。

不幸なことに、少なくとも米国では、米軍がイラク占領を終わらせるべきかどうかに関する論争の中で、イラク人の死者がどのくらい出ているかを正確に推定した情報は使われていない。さらに悪いことに、米軍が撤退したらその後多くの死者が出るだろうと警告し、撤退に反対している者たちを含め、これまでにどれだけたくさんのイラク人が殺されたかに対する関心は欠如しているように見える。そのため、アメリカ合州国の人々は、どれだけ多くのイラク人が殺されたかについてまったく知らされていない。2月にAPが行なったアメリカ合州国人に対する世論調査では、戦争の結果殺されたイラク人の数について、答えた人の中央値は1万人を下回るものだった [12]。

最良の推定は、米軍の侵略と占領の結果殺されたイラク人は100万人以上というものである。アメリカ合州国の政治家とメディアがこの現実に直面させられるとするならば、戦争を終わらせよという圧力が劇的に増えると考えるのは妥当であろう。そうすれば、イランやパキスタンに対する新たな軍事行動といった横柄な議論もやりにくくなるだろう。

パトリック・マケルウィーはJust Foreign Policyの政策アナリストでロバート・ネイマンは上級政策アナリスト。イラク人死者に関する彼らの推定は、http://www.justforeignpolicy.org/iraq/iraqdeaths.htmlにある。


[1] Burnham, Gilbert, Riyadh Lafta, Shannon Doocy, and Les Roberts," Mortality after the 2003 invasion of Iraq: a cross-sectional cluster sample survey," The Lancet, October 11, 2006, http://www.thelancet.com/webfiles/images/journals/lancet/s0140673606694919.pdf

[2] See http://www.iraqbodycount.org

[3] See the most current estimate and Web counter at: http://www.justforeignpolicy.org/iraq/iraqdeaths.html

[4] See, for example: Ball, Patrick, Paul Kobrak and Herbert F. Spirer," State Violence in Guatemala, 1960-1996: A Quantitative Reflection," Washington: American Association for the Advancement of Science, 1999, http://shr.aaas.org/guatemala/ciidh/qr/english/qrtitle.html

[5] Roberts, Les," Iraq s death toll is far worse than our leaders admit," The Independent, February 14, 2007, http://comment.independent.co.uk/commentators/article2268067.ece

[6] Baker, James and Lee Hamilton, co-chair," Iraq Study Group Report," December 2006, p. 62, http://www.bakerinstitute.org/Pubs/iraqstudygroup_findings.pdf

[7] Cockburn, Patrick," The surge: a special report," The Independent, 7 August 2007, http://news.independent.co.uk/world/middle_east/article2841425.ece

[8] Turse, Nick," Bombs over Baghdad: The Pentagon s Secret Air War in Iraq," TomDispatch, February 7, 2007, http://www.globalpolicy.org/security/issues/iraq/occupation/2007/0207bombsbaghdad.htm

[9] "Iraq Index," The Brookings Institution, http://www.brookings.edu/fp/saban/iraq/indexarchive.htm

[10] "Mental Health Advisory Team IV, Operation Iraqi Freedom 05-07: Final Report," Office of the Surgeon,Multinational Force-Iraq and Office of the Surgeon General, United States Army Medical Command, November 17, 2006, pp . 35, 37, http://www.armymedicine.army.mil/news/mhat/mhat_iv/mhat-iv.cfm

[11] Hedges, Chris and Laila Al-Arian," The Other War: Iraq Vets Bear Witness," The Nation, July 9, 2007, http://www.thenation.com/doc/20070730/hedges

[12] "Americans Underestimate Iraqi Death Toll," Associated Press, February 24, 2007, http://www.huffingtonpost.com/huff-wires/20070224/death-in-iraq-ap-poll /

人口比で言うと、日本では例えば札幌の人が全員殺された状況に該当しそうです。その一人一人に固有の、代えることのできない生活があって、家族や友人や職場の同僚や近所の人たちがいて、それが突然失われて、いろいろなものが破壊されて、そうした中、NHKは「対立する民族・グループ間で石油を公平に分け合うための石油法の採択が遅れていることに対し」、「バグダードでは治安が改善され」といった米国政府や米軍の発表を垂れ流しています。

投稿者:益岡
posted by 益岡 at 10:37| Comment(0) | TrackBack(0) | イラク全般
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