2010年10月21日

武器よさらば

パレスチナ人活動家・執筆家のラムジー・バルードがイラク戦争について語る。武器よさらば
ラムジー・バルード
CounterPunch原文
2010年10月1-3日

ジェニーとイラク、そして次の戦争

彼女を仮にジェニーと呼ぼう。一人ぼっちで、明らかに混乱していた。にきび面で、短く切った金髪の毛先は固まっていた。スカイライン列車が次の駅に向かう中、軍服と軍靴姿で、「気を付け」をして立ちながら、巨大なダラス/フォートワース国際空港の方をあてどなく眺めていた。

イラクから帰還した兵士はジェニー一人ではない。空港は軍服姿の男女でざわめいていた。お祝い気分はほとんどないようだった。空港の光景もまた、この戦争が当初から持っていた混乱と疑いに冒されていた。目的は曖昧でどんどん変わり、そうした中で、メディアや政府、右翼のシンクタンクから戦争を扇動した者たちは少しずつけれども厚顔に責任逃れをしている状況。戦争を扇動した者たちは誰もが態度を変え、多くは悪意をイランに向け始めた。一方、兵士たちは戦いを続け、人を殺し、命を失った。最近、イラクで米兵が削減されたことから、数千人規模の兵士が米国に帰還することになるが、想像もつかないほどのヘビーギアそして解消されない困惑とともにアフガニスタンに送られて戦闘を続ける者たちもいる。

アメリカ合衆国の貧困層はいつも富裕層が始めた戦争の負担を背負ってきた。貧しい兵士達が命を失い、あるいはメダルは得たものの身体と精神の傷を抱え誰も知らないままに残される中で、富裕層はあさましく戦利品をかき集める。

AP通信は、「2003年3月にイラク戦争が始まって以来、2010年9月22日の時点で、米軍の兵士少なくとも4421人が死亡した」と報じている。「国防省の週間記録によると、イラクで米軍の作戦が始まって以来、3万1951人の米軍人が戦闘で負傷した」。イラク人の死者数はといえば、数十万人から100万人以上と揺れがある。ここには、第一次イラク戦争(1990年から91年)、そしてその後に続いた長期にわたる経済制裁の死者は含まれていない。けれどもAP通信が正確な数字をあげていないことを避難するわけにはいかない。イラクという荒廃させられた国では、驚くべきスピードで死が訪れるため、犠牲者は埋葬されるだけでも幸運なほどなのである。

スカイライン高速列車はターミナルAで停車し、またすぐに循環経路を動き始めた。乗客が降り、新たに乗客が乗った。ジェニーは動かなかった。彼女を見て私はリンディ・イングランドを思い出した。アブグレイブで拷問を受けた哀れなイラク人捕虜に縄をつけて引きずり回したことで有名になった米軍の予備兵である。その捕虜の顔には、表現できる限り最大のあらゆる苦痛がこめられていた。イングランドの顔は固まっており、捕虜を見るその表情から彼女が何を考えているのかはわからなかった。イングランドはその後、拷問に関して有罪を宣言された。

アブグレイブは例外ではなくイラク全体の縮図である。世界の文明の揺籃期を支えた文明を粉々にしたこの巨大な犯罪については、誰一人有罪判決を受けていない。チェイニー、ラムズフェルド、ブッシュは引退後の生活を謳歌している。イラクに対する「戦争の理由」を捏造した者たちは、シンクタンクや大学、メディアで相変わらず忙しくしている。彼ら彼女らは今度は、イランに対する「戦争の理由」をでっち上げている。

とはいえ、ジェニーはリンディ・イングランドとはまったく別のタイプかもしれない。グリーンゾーンで事務仕事をしていたのかもしれない。イラクへの親近感を持つようになったかもしれない。イラク人家族の1つや2つと近しくなった可能性さえある。ハンドバッグの中にはヒヤート(「命」)という名のイラク人の子どもの写真が入っているかもしれない。

ジェニーはほんのささいな犯罪さえ犯さなかったかもしれない。イラクに派遣されることで世界は良くなると、米国をテロリスト----サダム・フセインと共謀してアメリカ攻撃を計画したとでたらめを信じさせられた----から米国を守ることになると純粋に信じていたかもしれない。世界の仕組みを理解するには若すぎるかもしれない。彼女の表情はティーンエイジャーのものである。実際にティーンエイジャーなのだから。戦争を煽った者たちは彼女に銃を与え、撃ち方を教えたのだ。民主主義について、アラブ人の考え方について教え、大学の授業料支払いといった特典を約束したのだ。ジェニーは、イラクで起きたことに責任を負っているのだろうか?

ターミナルBとCに着いた。ジェニーは、次の停車駅を知らせ乗客にどこで降りるべきか伝える英語とスペイン語の機械的な声にまったく注意を払っていないようだった。

そもそもジェニーがイラクに送られたのはいつだろう? 戦争が引き起こした大被害が現在と同じように明らかになってからだろうか? 戦争を扇動した者たちは、いつでも、敵を黙らせ、死者を埋葬し、「副次的被害」を都合良く正当化して忘れれば、世界はよりよいものとなると言う。けれども、とりあえずこの戦争に限って言えば、世界がよりよいものになっていないのは確かである。中東地域も米国も、ほんの少しも安全になってはいない。実際、世界全体がはるかに危険なものになっている。でたらめな約束、捏造された証拠と偽造によって煽り立てられた戦争。この戦争が作り出したものは、混乱、セクト間の分断、政府内の争い、人々の対立であった。もちろん、最も大きな犠牲となったのはイラクの人々だが、現在アメリカ合衆国を飲み込んでいる危機の大きな要因の一つとなったのもこの戦争である:国内の政治的分断、海外での外交政策方針(および影響力)の喪失、景気後退。まずこれらは国内で、さらに国際的に波及し、その影響は様々なかたちで認められる。

戦争は終わっていない。古い戦争が便利に再燃させられつつある。ジェニーは、家に変えれば、状況がどれだけ悪かったか、仕事を見つけるのがいかに難しいか、聞かされることになろう。アメリカでまともな生活を送るための収入を得る機会は、彼女が軍に入ってから----それがいつであろうと----今日までの間に大幅に減った。結局のところ、彼女が生きるためには、軍は最もよい場所なのかもしれない。

ジェニー、次はどこに? 別の名を与えられた作戦のために、イラクに戻るのだろうか? たぶん「新たな夜明け」作戦といった名前の?

最終ターミナルのDでもジェニーは動かなかった。乗客は全員、ここで降りなくてはならない。スカイライン高速列車はここから新たな巡回をはじめるのだから。ジェニー、これからどうするのか? 決められるのは自分しかいない。

ラムジー・バルードは PalestineChronicle.comの編集者で、世界中で多くの新聞や雑誌に記事を発表している。最新の著書にThe Second Palestinian Intifada: A Chronicle of a People's Struggle (Pluto Press, London)がある。ほかに、My Father Was a Freedom Fighter: Gaza's Untold Story (Pluto Press, London)も最近刊行されている。

投稿者:益岡
posted by 益岡 at 09:02| Comment(0) | TrackBack(0) | イラク全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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