終わらない侵略の罪:病を抱えるファルージャの子どもたち
ウィリアム・ブルム
CounterPunch原文
2010年4月6日
いったいいつ始まったのだろう。この、「あなたの[ご相談/問題/ご質問]を大変深刻に受け止めています」というやつは? ろくでない留守番電話から? 企業や政府や組織があなたが電話をおかけになった理由についてはそれが何であれ深刻に受け止めますと請け合う中、我々は際限なく待たされ続ける。何と親切で思慮深い世界に我々は生きていることだろう。
先月、BBCが報じたところでは、イラクの都市ファルージャの医師たちは先天性欠損症が高頻度で発生していると発表した。医師たちの中には、2004年に米軍がファルージャに加えた猛攻撃----それによりファルージャの大部分は廃墟となった ----で使った武器が原因だと言う人々もいる。「まるで地震のようでした」。国会議員選挙に立候補していた地元の技師は2005年、ワシントン・ポスト紙にこう語っていた。「広島と長崎、そしてファルージャです」。そして今、ファルージャでは、新生児の心臓欠損がヨーロッパと比べて13倍も多いという。
BBCの特派員は、麻痺や脳損傷に苦しむファルージャの子どもたちを目にしており、また、三つの頭を持って生まれた幼児の写真も見ている。さらに、ファルージャでは市職員が女性たちに子どもを作らないよう警告しているのを何度も耳にしたと彼は述べている。ファルージャのある医師は、2003年以前の先天性欠損症のデータと現状を比較している----当時は2カ月に1症例程度だったが、現状では、毎日複数のケースを目にしているという。「額の真ん中に目が一つある新生児や額に鼻のついた新生児の映像も見ました」と彼女は言う。
米軍の報道官マイケル・キルパトリックは、米軍は常に公衆衛生問題を「極めて深刻に」受け止めていると言いながら、「現在までのところ環境問題から特定の健康問題が起きたことを示す研究は一つもない」と話す*1。
白リン弾、劣化ウラン、ナパーム、クラスター爆弾、中性子爆弾、レーザー平気、殺人光線平気、強力マイクロ波兵器をはじめとする、ペンタゴンが発明した素晴らしきSF型兵器を7年にわたり使ったことで、米国がファルージャをはじめとするイラクの各地にもたらした戦慄すべき環境破壊と人道的破局の詳細ならば、何巻にもわたって記録することができる・・・・・・醜悪な事態とグロテスクな死の一覧はとても長いものになり、米国の政策が示す理不尽な残虐さはショッキングである。2004年11月、「多くの犠牲者が出ているとの噂はファルージャの病院から出ていると確信した」との理由で米軍はファルージャの病院を標的にした*2。ベトナム戦争で、今回と同様やはり栄光に輝くアメリカが「我々は町を救済するために破壊しなくてはならない」と主張したのにも比する発言である。
世界は、このような非人道的振舞いにどう対処できるのだろう? (しかも上で述べたことは米国が国際的に行ってきたことの記録全体から見るとほんの表層でしかない。) こうしたことのために、1998年、ローマで国際刑事裁判所(ICC)が国連の保護のもとに設立された。オランダのハーグに作られたICCは、「ジェノサイドの罪、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略犯罪」(ローマ規程第5条)に関して、国家ではなく個人を調査し訴追する役割を負う。当初からアメリカ合衆国はICCへの参加に反対し、批准しなかった。理由は、ICCがその権力を使ってアメリカ人を「軽々しく」訴追する危険がある、とのことであった。
当時のアメリカ合衆国権力者は訴追されることをとても憂慮したため、世界中に出向いて脅迫と賄賂を使い各国に対し、外国で戦争犯罪を犯したとして告発された米国市民を国際刑事裁判所に送らないよう約束させる協定に署名させた。これまでのところ、米国からの圧力に屈して協定に署名した政府は100をわずかに越えたところである。2002年、ブッシュ政権下の米国議会は「米国軍人保護法」を採択した。この法律は、「国際刑事裁判所・・・・・・に留置ないしは投獄された米国人あるいは同盟国人を釈放させるために必要かつ妥当なあらゆる手段を用いる」と謳っている。オランダでは、この法律は広く嘲り気味に、「ハーグ侵略法」の名で知られている*3。この法律は現在も存在する。
米国政府関係者は頻繁に「軽々しい」訴追----米軍兵士や文民軍事傭兵、元政府関係者などに対する政治的な動機に基づく訴追----について口に出すが、本当に心配しているのは、実際の出来事に基づいた「真面目な」訴追であることは間違いない。とはいえ、心配することはない。「高潔なるアメリカ」という神話は、様々な国際組織で依然として健在であるのと同様、国際刑事裁判所でも健在であり、実際のところ世界中の多くの人の間でも健在である。最初の数年間、ICCは、アルゼンチン出身のルイス・モレノ=オカンポ主任検察官のもとで、戦争犯罪で米国を訴追するよう求める何百という請願----イラク戦争に関する240の請願も含まれていた----を却下した。様々なケースが、証拠不足とか管轄外とか、米国には自ら調査と裁判を行う能力があるといった理由で却下された。米国が実際にそのような能力を使ったことは一度もないという事実はICCにとって特に重要ではないようである。「管轄外」というのは、米国がICC規程を批准していない事実を指す。一見したところ、これはいささか奇妙に思える。国家は、戦争犯罪を禁止する条約を批准していない限り、戦争犯罪を犯しても罪を受けずにいられるというのだろうか? ふーむ。可能性は尽きない。2006年8 月に公表されたある議会の調査では、ICCの主任検察官は米国のイラクにおける行為に基づいて「米国に対する調査を開始することには消極的」な態度を示したと結論している*4。国際刑事裁判所の栄光ははや過ぎ去りぬ。
侵略犯罪については、ICC規程では「侵略犯罪を定義し、及び裁判所がこの犯罪について管轄権を行使する条件を定める規定が採択された後に、裁判所は、この犯罪について管轄権を行使する」とされている。つまり、侵略犯罪は「侵略」が定義されるまでICCの管轄から除外されているのである。著述家のダイアナ・ジョンストンは次のように言う:「これは奇妙な議論である。というのも、侵略は1974 年の国連総会決議で、『侵略とは、国家による他の国家の主権、領土保全若しくは政治的独立に対する、又は国際連合の憲章と両立しないその他の方法による武力の行使を言う』として極めて明確に定義されており、侵略に該当する行為を特に7つ挙げているからである」。そこに挙げられている行為の中には、以下のものもある。
一国の軍隊による他国の領域に対する侵略若しくは、攻撃、一時的なものであってもかかる侵入若しくは攻撃の結果もたらせられる軍事占領、又は武力の行使に よる他国の全部若しくは一部の併合、
一国の軍隊による他国の領域に対する砲爆撃、又は国に一国による他国の領域に対する兵器の使用
この国連決議はさらに「政治的、経済的、軍事的あるいはその他の性格いかんに拘らず、いかなる性格の考慮も侵略の正当化を許すものではない」としている。
侵略が依然としてICCの管轄外に置かれている本当の理由は、批准を拒否するまではICC 規程を詰めるにあたって大きな役割を果たしてきたアメリカ合衆国が、侵略を管轄に含めることに強硬に反対したことにある。反対した理由は簡単にわかる。「侵略」の事例は明確に事実に関わるものであり、「ジェノサイド」のように定義が意図性に依存する犯罪の事例を同定するよりもはるかに容易なのである。
5月、ウガンダのカンパラでICCの会議が開催され、「侵略」を定義する問題が議論される予定である。アメリカ合衆国はこの議論を心配している。戦争犯罪問題担当米国特使スティーヴン・J・ラップは昨年11月19日、ハーグで、ICC加盟国(これまでに111カ国が批准している)に対して次のように述べている。
本組織において検討中の問題、侵略犯罪の定義という我が国が特に重視している問題に対する我が国の憂慮を皆さんにも理解していいただきたい。侵略犯罪の定義については来年カンパラで開催される再検討会議で扱われることになっている。アメリカ合衆国は侵略犯罪について周知の見解を有しており、それは侵略や侵略の脅威に対して国連憲章から安全保障理事会に付託された特定の役割と責任を反映するものである。アメリカ合衆国はまた、定義草案自体の枠組みについても関心を持っている。我々の見解はこれまでも現在も次のようなものである。すなわち、定義された侵略犯罪を含むようにローマ規程が修正される際には、ICCの管轄は侵略が起きたことについては安保理の決定に従うべきであるというものである。
ラップ氏が何を言おうとしているのか、ご理解いただけるだろうか? 侵略が起きたかどうかを決めるのは国連安全保障理事会であるべきだ、というのである。アメリカ合衆国が拒否権を有する組織がそれを決めるべきというのだ。アメリカ合衆国の対外政策に犯罪の烙印を押すことになるような侵略の定義が採択されることを防ぐためというのが、アメリカ合衆国が5月の会議に参加する最大の理由であろう。
それにもかかわらず、アメリカ合衆国がICCの会議に参加するという事実は、オバマ政権の対外政策はブッシュ政権時代よりも改善されたことを示す一例だと指摘する者も現れるだろう。けれども、そうした事例のほとんどが示しているように、それはプロパガンダの幻想に過ぎない。『ニューズウィーク』誌の3月8日号に大見出しで掲げられていた「ついに得られた大勝利:民主的イラクの到来」と同様である。イラク選挙のイカサマ----当選者が逮捕されたり国外に避難している*6----が明らかになる前でさえ、この見出は、冷戦時代にアメリカ人がプラウダやイズベスチヤについて果てしなく言いつづけてきたジョークを思い起こさせる。
ウィリアム・ブルムは『Killing Hope: US Military and CIA Interventions Since World War II』、『アメリカの国家犯罪全書』、『West-Bloc Dissident: A Cold War Political Memoir』の著者。
メールは BBlum@aolドットcom。
投稿者:益岡





