2009年05月21日

戦闘不適

米軍兵士たちが抱える問題。イラク侵略と占領を現場で支え、多くの人々を殺してきた米軍兵士たちについて「彼ら彼女らもまた犠牲者だ」と同列に言えるわけでは決してありませんが、その一方で、米国のような戦争経済と貧困の支え合い構造がどのようなもので、勇ましい掛け声の陰で何をもたらすかについては、きちんと知っておくべきだと考え、訳出しました。
戦闘不適
ダール・ジャマイル
DahrJamailIraq.com原文
2009年5月12日

この月曜日(5月11日)バグダード時間の午後2時、バグダードの米軍基地にあるストレス・カウンセリング・センターである米軍兵士が同僚兵士5人を撃ち殺した。ペンタゴンで行われた記者会見の場で、米軍統合参謀本部長マイケル・ミューレン海軍大将は記者団に対し、この射殺事件は「個人が助けを求めている」場所で起きたと述べた。ミューレン大将はさらに、「このことはやはり、我々がストレスへに対処する努力、方策を強化する必要があることを示している・・・・・・。これはまた、繰り返し派兵することの問題を提起している」。

それとほとんど同じ言葉で、米国国防長官ロバート・ゲーツは、ペンタゴンは戦地へ繰り返し派遣されることから生ずる兵士のストレスを軽減するための対策を強化しなくてはならないと述べている。ストレスは、派遣の間に取れる帰国期間が限られていることで、さらに悪化している。

ミューレンとゲーツが言及している状況について、経験を積んだ保健衛生専門家ならPTSD(心的外傷後ストレス障害)と言うだろう。

帰国した兵士たちが、イラクでの経験の直接的結果として、発砲事件や自殺をはじめとする事故破壊的な振舞いに至るのはごく普通のことだが、イラクでこの規模の事件が起きたのは初めてである。

これに類する事件が最後に起きたのは2005年のことで、陸軍大尉と中尉がティクリートにある米軍基地の部屋の窓で爆発した対人地雷により殺されたときである。このケースでは、州兵の二等軍曹アルベルト・マルチネスは無罪となった。

米軍が、何年も前から、PTSDを抱えた兵士達を治療もせずに米軍によるイラク占領のためにイラクに送り返していることを考えれば、兵士が同僚を5人殺したと聞いても、驚くことではない。

昨年の夏、私はイラクとアフガニスタンで兵務に服したことのあるブライアン・カスラーと話をした。カスラーは慢性的なPTSDに悩まされており、悪夢を見続け、ひどい歯ぎしりのために顎を脱臼したこともある。

「いまだに四六時中ぎりぎりだ」とカスラーは言う。「社会環境に出ると問題がある。自分が自滅的だと思ったことはなかったが、この数カ月は、車を運転していて、15秒だけ目を閉じて車をコンクリート壁に突っ込ませたらどんな気持ちだろうと思うことがある。以前はこんなんではなかった。[軍から]戻ってくるまで、そんな考えを持ったこともない。自分じゃないような感じだ。以前は救いがたいロマンチックだったのに、今では対人関係の問題を抱えている。世界一のガールフレンドだから、彼女の問題ではないことはわかっている。個人的問題を抱えていて何とかしなくてはならない。問題が多すぎる。安らぐことがない。それから後悔。イラク戦争についてあまりに考えすぎている。イラクのことよりも家族のことを考えたいんだが。それで消尽してしまう。授業でも集中できない。仕事にも集中できない。組合で働いていて、組合のためにピケを張るんだけど、考えることはといえば、この戦争をどうやって終わらせることができるかだ。この戦争を終わらせることに関するもの意外に注意を払うことができない」。

戦争は残虐行為である。戦争は二方向の精神病である。戦争は関係者すべて----それがイラクの民間人であれイラクを占領している米軍兵士であれ----に破壊と苦しみしかもたらさない。

「あまりに多くのことが起きた。間違ったことだというのはわかっていた」とカスラーは続ける。「みんなを代表してというわけにはいかないが、多くの人が後悔からPTSDを患っている。以前やったことについて、今、問題が出てきているんだ。実際にやったときに正しいと思ってたか間違ってると思ってたかは問題ではない。重要なのは、まさに今、自分の行動について問題を抱えており、心の中で混乱していることだ。毎日、心が混乱している。軍の精神そして嘘の永続化を吹き込まれたんだ」。

米軍は、兵士を再派遣する前に薬で治療する。現地の頭数を揃えるためだが、これが問題をさらに複雑なものにしている。2007年秋に米軍兵士に対して行われた匿名の調査では----そのデータは米軍の精神衛生アドバイザリ・チーム第5報告の一部に使われている----、イラクに駐留する戦闘部隊兵士の12パーセント、アフガニスタンでは17パーセントが処方せん医薬品を用いている。ほとんどが抗鬱剤か睡眠薬である。

クリストファー・ルジューン曹長はこうした「治療」を直接経験している。彼は鬱と診断されたが、軍医はセルトラリンという抗鬱剤とクロナゼパムという抗不安薬を与えて彼を戦地に送り返した。「様々な理由で、自分が抱えている問題を認めることは兵士達にとって難しいし、仮に問題があると認めて相談しても、解決策として薬を手渡されるだけだ」。

イラクとアフガニスタンにいる兵士の中で自殺した5人のうち2人は、抗鬱剤を服用していたことがわかっている。

カスラーが経験し、ミューレンとゲーツが述べたように、短い間隔で回復する時間もほとんどなく繰り返し派兵されることにより、退役軍人の精神衛生にも悪影響が生じる。

イラクとアフガニスタンに兵士が派遣される際に、わずか2週間しか間隔がないことも、当たり前にある。「ストップロス」政策をでたらめに適用し、派遣をやみくもに延長することで、すでに限界にある状況がいっそう悪化している。

2008年5月9日、ロサンゼルス・タイムズ紙は、2005年3月の段階で「ストップロス」プログラムの対象となっている兵士たちは1万5758人に達していたと報じている。2008年8月、米国議会予算委員会防衛小委員会は、2001年10月以来のストップロス命令によって除隊や退役が送れた兵士達に月々500ドル支払うことを承認した。この奨励策も、士気を高めることにはならなかった。

ペンタゴンの記録から、2003年以来、軍が採用した錯乱したストップロス政策がもたらした驚くべき結果がわかる。2008年5月8日、USAトゥデー紙でグレッグ・ゾロバが報じているように、イラクかアフガニスタンに派遣される予定の1週間前の時点で、派遣予定の兵士達のうち4万3000人以上が医学的に派遣不適と判断されていたにもかかわらず、派遣されたというのである。

軍精神病医のチャールズ・ホッジ大佐は2008年3月、米国議会で、三度派遣された兵士のうち30パーセント近くが精神的に壊れていると述べている。最近の研究では、戦闘任務の間に現在のように1年間の休暇を取るだけでは「時間的に不十分」であり、それでは再び戦争に派遣される前に「心機一転」して回復することはできないことが明らかになっている。

イラクへの2度目の派遣から戻ってきたセルジオ・コチャージンは、自分の口に銃を突っ込み、引き金を引く勇気を奮い起こそうとした。PTSDの治療もせず、悪夢と不眠に悩まされ、薬物をひどく濫用し、自己治療を何度も試みては失敗してきたために、彼の状況は悪化した。彼はテキサス州テキサルカナで友人とアパートをシェアしていた。それまでの数カ月、彼は両親の家で過ごしたが、そこでは「いつも飲みすぎ、ものを壊し、毎日ブチ切れ、両親に悪態をつくなど多くの問題を引き起こした」。今の状態から逃れ、イラクに再び派遣されることを避けるために自ら命を断とうと思ったのは2007年初頭のことだった。コチャージンの契約期限は切れていたが、医療面で軍の所属から免除されるまでは6カ月以上残っており、その間、彼は再びイラクに派遣されると思ったのだった。

その一年後、コチャージンは自分の自殺について、次の用に語った。「長いこと、40口径を口に入れたまま、どうすればよいのか迷った。この苦しみに終止符を打つべきか、生きつづけて自分を責めつづけるべきか? 幸い、私はそのまま眠りに落ち、翌朝、目が覚めた。ルームメイトが入ってきてむちゃくちゃブチ切れ、銃を彼の両親の家に持ち去った。私はちょっと外に出て、深呼吸して、さて、「このまま投げ出してしまうのはもったいない」と思ったんだ。それから、何かしようと決めた。逃げているだけでは何も解決しないとようやく理解したんだ。問題に向き合い、何とかしなくてはならない。それで前向きになれた」。

けれども、同じ状況に置かれた退役兵士の多くは、別の決断をする。

「社会的責任を果たす医師団」の会長エヴァン・カンター博士は精神病医で、PTSDを抱える退役軍人の治療を専門としている。2008年6月、シアトル公会堂で行われた会議で私は彼の講演を聞く機会に恵まれた。

「パネリストの皆さんは、もっとも症状の重い退役軍人たちはこのような会合に参加できないと言いました」と博士は言う。「私がここにいる理由の一つは、私が治療している人々に代わって話すことです。彼ら彼女らはここに来て皆の前で話すことができないだけでなく、この規模の人々が集う部屋にいることさえ耐えられません。これらの人々のひどい状況は、占領がもたらす真のコストの一部であり、その大部分は医療の領域で担当することとなります。医者として、私はそうした隠された傷や隠されたコストについて話したいと思います。その多くは意図的に隠されています。というのも、人々がそうしたコストを理解するならば、戦争を起こそうなどど簡単には思えなくなるかもしれないからです」。

「私たちは、戦闘における米兵の死者数は4000人と聞かされています。このホール周囲にある墓石が示す通りです。けれども、その数には自殺者も、戦闘で受けた致命傷により戦場から運び出された後に死んだ者も、私企業の契約要員の1000人以上の死者も含まれていません。負傷した人や身体を損傷した人、医学的に病気とみなされる人を合わせると7万人を越えますが、軍は意図的に、とても把握しにくい三つに区分することにより、その数を隠蔽し細分化します。イラクにおける負傷者数と死者数の比は、それ以前の紛争と比べてはるかに高くなっています。そしてそれは、戦闘による死者数よりもはるかによくイラクでの暴力規模を表すものなのです。イラクではその比率は8対1ですが、ベトナムでは3対1、第二次世界大戦では2対1でした。この理由は、防護衣と戦地医療の二つが進歩したことにあります。今日、米軍は、負傷者に安定装置を施したうえで24時間以内にドイツのランドストゥール空軍基地に移送できますが、ベトナム戦争のときには、戦地で治療を受けた兵士に十分な手当てを施すために戦地から連れ出すためには数週間かかることもありました。その結果、現在では、以前の戦争で同様の状態になっていたなら決して生き延びることができなかっただろうひどい負傷を負った兵士達が死なずに存在しているのです。私たちは社会的に、このようにひどい怪我を負った退役軍人の残りの人生をケアする費用を負担することになります」。

この問題について、さらに進んで、カンター博士は次のように述べた。「さらに・・・・・・私たちは新たな現象を目にしていますが、どのように対処してよいかわかりません。それは、TBIすなわち外傷性脳損傷です。この損傷は、強い爆風による気圧が引き起こす損傷です。その病理についても、長期的な影響についてもあまりわかっていません。戦争の隠された傷である心的外傷後ストレス障害とともに、隠された傷ですが、新たなものです。さて、これまでに160万人が兵士として派遣されたことを考えると[現在では180万人を越えている]、PTSDと鬱病だけを見ても、30万から40万の精神的負傷が発生していることになります」。

帰還兵の中にPTSDと鬱病を患うものが多く、その数が増加していることは、軍での高い自殺率と直接関連しているとカンターは言う。「榴散弾による負傷と同様、PTSDも戦争による負傷です。ひどく人を衰弱させるものです。症状としては、悪夢やフラッシュバック、生理的・心理的ストレスの誘発、引きこもり、孤立、トラウマを思い起こさせるすべてのものからの逃避、感情麻痺、怒りや憤怒の爆発、集中したり注意することへの困難、過剰警戒状態----軍はこれを「戦闘精神」と呼んでいます----などがあります。重いPTSDを抱える退役軍人が、今日私たちと同じ部屋にいるのが不可能なのは、これらの症状によるものです」。

第二次世界大戦以来の研究から、戦闘経験のある退役兵士は一般の人と比べて二倍の確率で自殺しやすいことがわかっている。あまり知られていないいたましい事実としては、そのほかに、米国の全失業者のうち9パーセント、全離婚と別離の8パーセント、そして配偶者やパートナーの虐待の21パーセントは、戦闘を経験したことによるものである。これらすべての影響は、子供たちの問題行動、児童虐待、麻薬や酒への依存症、投獄、ホームレスなどにつながる。それらはみな、個人の問題を越えて、何世代もの将来にまで社会的に跳ね返ってくる。

イラク占領もアフガニスタン占領も無際限に続く中、バグダードで月曜日に起きたような残虐行為をもっとたくさん耳にするようになっても驚くべきではない。それがイラクで起きるのであれ、米国で起きるのであれ。

投稿者:益岡


posted by 益岡 at 10:59| Comment(0) | TrackBack(0) | イラク全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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